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宇都宮地方裁判所 昭和25年(行)28号 判決 1951年4月17日

栃木県那須郡下江川村大字熊田原

原告

田代平

右訴訟代理人弁護士

岡本繁四郞

同県塩谷郡氏家町

被告

氏家税務署

右代表者署長

平野吉之助

右指定代理人大蔵事務官

和田新治

古橋浩

法務府行政訟務局第四課長

杉本良吉

法務府事務官

市原利之

竹下甫

右当事者間の昭和二十五年(行)第二八号国税徴收法による差押処分取消請求事件につき当裁判所は次のように判決する。

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は、

請求の趣旨として被告が原告所有の別紙目録記載の不動産につき昭和二十五年九月十一日なした差押処分はこれを取消さねばならない、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

請求原因として原告は農兼精米業を経営しており、別紙目録記載の不動産を所有しているところが被告は原告に対する昭和二十四年所得税更正決定に於て、所得額を金三十三万九千三百円と決定した。それで右決定に不服なるため昭和二十五年八月二十二日関東信越国税局長に対し、再審査の請求をしたが被告は之を上級官庁たる右局長に進達しないで握り潰し、昭和二十五年九月十一日に至り右不動産に対し差押処分をなした。右は職権濫用である。仮に職権濫用でないとしても差押には(一)納税義務者の任意の履行意思に期待することができないこと(二)納税義務者が督促を受け指定された期限迄に税金(延滯加算税額を含む)及督促手数料を完納しないとき、換言すれば納税義務者の財産状況及納税資金の調達の速度と税務官庁の徴税能率ならびに差押財産の換価の難易及び速度とを比較考量して必要ありと認むることの要件を具備しなければならないのに、この点につき何等の考慮を拂つてない本件差押は違法である。又差押は滯納税金の徴收に必要な限度に於て執行せらるべきであるのに滯納税金の十倍を超過する約三十万円以上の取引価値のある物件に対してなした本件差押は違法である。よつてその取消を受けるため本訴請求に及んだと陳べ、

立証として甲第一乃至五号証を提出し、証人仁衞道由の証言並に原告及び被告代表者の当事者尋問の結果を援用した。

被告指定代理人は本案前の答弁として原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その理由として税務官庁のなした滯納処分の取消又は変更を求むる訴は国税徴收法第三十一條の四により原則として再調査の決定を経た後でなければこれを提起することができないのであるが、同條第四項但書により再調査の請求により六カ月を経過してもこれに対する決定の通知がない場合には訴を提起することができることになつている。然るに原告の再調査の請求は昭和二十五年八月二十二日になされたのに六カ月を経過しない同年十月二十四日に提起された本訴は右訴願前置の規定に反するから不適法である。よつて却下さるべきである。本案につき主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の差押、再調査請求の事実は認めるがその他は否認する。被告は昭和二十五年二月二十日を以て原告に対し昭和二十四年分所得額金三三九、三〇〇円税額一二五、九八〇円なる更正決定をなし、同月二十二日頃これを送達したところ原告は同年二月十六日右更正決定を不服として被告に対し審査の請求をした。その後右更正決定には一部誤謬があることが判つたから同年七月四日付を以て所得金額を三〇四、〇〇〇円税額を一〇四、八五〇円に訂正したところ原告は右訂正に対し関東信越国税局長に対し再審査の請求をしたが、右のような訂正に対しては再審査をなし得る旨の規定がないから同局長には之を進達しなかつた。又税金の徴收又は滯納処分は審査の請求があつた場合においても猶予しない建前になつており、且つ納税義務者に誠実に納めようとしても納められないというような「相当な事由」ないしは、「己むを得ない事由」があるとは認められなかつたので、被告は昭和二十四年八月十日第一期分二、〇一八円、同二十五年一月十五日第二期分二、〇一六円、同二十五年四月四日第三期分四四、〇一六円、随時分同年四月四日七九、三六〇円(加算税を含む)、一九、二五〇円(追徴税)(但し之は誤謬訂正の結果五〇、九一五円に減額となる)につき納付方督促したが納付がなかつたので同年九月十一日本件差押をしたのであつて、何等の違法はないから原告の請求に応ずることはできないと陳べ甲号証の成立を認めた。

理由

先づ本案前の抗弁につき審査するに国税徴收法第三十一條の四によれば再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求むる訴は行政庁の審査の決定を経た後でなければ提起することはできないが右決定を経ることにより著しい損害を生ずる虞あるときその他正当な事由あるときは右審査の決定を経ないで訴を提起することを許している。然るに被告代表者平野吉之助の当事者尋問の結果によれば右審査の決定には時として、二、三年を要することもあることが認められるから直ちに訴を提起したことは違法といえないので、被告の抗弁は採用できない。よつて進んで本案につき按ずるに、原告主張の差押のあつたこと原告が再調査の請求をしたことは当事者間に争がない、而して右請求を被告が国税局長に進達しなかつたことは被告の認むるところであるが、原告の再審査の請求は弁論の趣旨に因ると被告主張の様に所得更正決定に対する誤謬訂正についてなされたものであるがこれに対しては再審査の請求をなし得る規定がないから進達しなかつたことは違法といい得ない。次に原告は任意の履行を促す措置をとらないで差押したのは不法であると主張するが右被告代表者の当事者尋問の結果によると督促しても原告よりの納付がなかつたので差押したことが認められるからこの点についても違法はない。更に原告の滯納税額を数倍超過する価格の物件を差押したのは違法であると主張するが成立に争のない甲第五号証によると本件建物の評価格は七四、七〇〇円、山林の評価格は五、七四二円であることが認められる。右認定に反する原告の当事者尋問の結果は措信することができない。而して課税処分に対する再調査の請求は滯納処分の続行を妨げないものであることは国税徴收法第三十一條の二第三項と規定するところであり、本件更正決定による滯納額は一期二、〇一八円二期二、〇一六円三期四四、〇一六円四期五〇、九一五円であることは成立に争のない甲第二号証により明かであるからこの点より見ても本件差押は不法でない。よつて原告の主張は採用できないから本訴は理由のないものとして排斥し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文のように判決する。

(判事 真田禎一)

目録

那須郡下江川村熊田橋場二〇八七番

一、住家 木造平家一棟

建坪 四二坪一〇合

同所

一、倉庫 木造平家一棟

建坪 六坪

同所

一、納屋 木造亜鉛葺平家一棟

建坪 十七坪五合

同所

一、納屋 木造平家一坪

建坪 一二坪

那須郡下江川村大字平沢二六二三ノ一

一、山林 九反六畝十六歩

同所大字長久保二六五六ノ六

一、山林 六反三畝

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